連休明けの10月上旬、東京・三元茶屋で開催された、第30回Mr.Mac Academy講演会。
不定期で行われているMr.Mac Academyは、人と犬がよりよく暮らしていくためには?をテーマに各分野のプロフェッショナルが講師として登壇するセミナー。
過去30回分の登壇講師は錚々たるメンバーで、これは主宰の日置さん(ペットグッズを手がけるMr.Mac社長)の今までの経歴と人脈のすごさだなあ…と思います。
そんな第30回目の登壇講師はキャスターの安藤優子さん。そして、ゲストコメンテーターには、Instagramで話題沸騰中のクリエイター・小野裕人さん。
このお二人と主宰の日置さんを交えて、犬を飼うところから旅立ちまで、様々な話とそれぞれの見解がディスカッションされました
ペットショップは売るための場所
わたしたち人が家族の一員となる犬と出逢う場所ってどこでしょう?
真っ先にあがるのはペットショップ。
そして、犬種ごとに繁殖をさせているブリーダー、保護団体。
大多数の人は、ペットショップの店頭でころころと転がる生後2ヶ月未満の仔犬をみて「かわいい〜」となり、衝動的に迎える…パターンが結構多いのではないかなと。
(事前に犬の生態や飼育に関わることすべて調べた上で、お迎え先がペットショップという方がいるのも知ってます)
ペットショップはその言葉の通り、生体販売をするところ。
基本は、売るための買ってもらうための耳障りのいい言葉しか教えてくれず、ショップにとって不都合なことはいいません。
本来、生まれてまもない仔犬たちが新しい家族を出逢う場所なのであれば、迎えたいという家族の構成、ライフスタイルに合せて犬種の提案をしたり、時には欲しいと求める犬種をライフスタイルに合いませんよ、と忠告することもするべき。
でも今のペットショップはただ売るためだけの場所で、犬を幸せにする責務は追っていないのが現状です。
ショップで働いている人、ひとりひとりは違うのかもしれない。
家族が見つかったね、幸せになるんだよ、って送り出してるスタッフももちろんいると思うのだけど、ショップ全体を俯瞰して見ると「犬を幸せにする責務は追っていない」という言葉に集約されてしまうのかな、という気がします。
殺処分ゼロの数字のマジックに惑わされない
ここ最近、選挙の公約にも出てくるようになった殺処分ゼロ。
でも、殺処分ゼロを一瞬でも達成することはそんなに難しいことじゃない。
ゼロを維持し続けることがものすごく難しい。
ゼロにすることが目的になると、各保健所や愛護センターから引き出されればよくて(その施設はゼロになるから)引き出した先…保護団体や預かりボランティアのところで犬たちが飽和して崩壊する。
それでは、ただ行きていく場所が変わっただけで環境もよくならないし、なんの意味も持たない。
ホントは殺処分ゼロを掲げるのではなくて、捨てられる犬をゼロにすること、保健所や愛護センターへ収容されてしまう犬たちをゼロにすることが重要で必要。
そう、力強く語っていた安藤さんが印象的でした。
そして、一番勉強になったなと思えたのはこれらのこと。
- 殺処分ゼロを謳って寄付金を募る団体が多い
- 殺処分ゼロは政治利用されることが多い
- 殺処分ゼロをスローガンにあげている団体は疑った方がいい
- 保護犬引き取り数を3ケタ以上公開している団体は疑った方がいい
確かに殺処分ゼロを公約にして選挙活動をしていた政治家の記憶はあったけれど、その後の継続活動については目にした記憶がないなあ…とか。
もう5〜6年前くらいに、ふるさと納税が殺処分ゼロ活動に使われるというニュースを見たことがあったのだけど、これも今考えると「すごい!その使い道ならふるさと納税しよう!」って安易になってはいけなかった事例なのかもしれません。
殺処分ゼロのその言葉のインパクトは大きくて、ゼロという数字のマジックも大きくて、とてもすごいこと、それを実現しようとするのは素晴らしいことだと思いがちだけれど、実はそうじゃない。
家族の一員として犬を迎えたなら、最後まで責任持って一緒に暮らしていくことがわたしたち飼い主の責務。
殺処分ゼロを、センター収容期間が切れちゃいます!と声高に叫ぶのもいいけれど、そうなる境遇の犬たちを作らないこと。
まず一番初めにやらなければいけないのは、こちら。
安藤さんも「理想論かもしれないけど」と何度もおっしゃっていたけれど、それでもやっぱりそこだよね、と聞けば聞くほど思えてきます。
保護犬の里親条件はとても厳しい
わたしが蘇芳(すおう)と真赭(ますほ)を迎えた時、保護団体から譲り受ける…という選択肢は実はありませんでした。
よく知らなかった、というのが一番の理由だけれど、預かりボランティア活動をしている知り合いが増えてくると、選択肢としてあったとして実現はしなかっただろうな、というのがよくわかります。
保護団体から譲り受けるには、様々な条件をクリアする必要があります。
わかりやすいところでいうと、
- 高齢者NG
- 単身者NG
- 事実婚NG
- 先住犬NG
既婚者でも夫婦揃ってフルタイムで働いている場合はNGなんてこともある。
過去に暮らしたことのある犬種であれば、経験のないお家へいくよりも犬にとってもいいのだけど、上記の条件で迎えたくとも迎えられない人がいるのが現実。
それは、次こそ幸せになって欲しい、という団体の想いの現れでもあるのだけど、それでもやっぱり条件をクリアできる人の割合が少なすぎる結果、責任を持って犬と暮らしたい人が暮らせない、ことにもなってるのかなと。
反対に条件が厳しいからこそ、ぴったりな家族とマッチングできる場合もあるわけで。
ゲストの小野さんの愛犬・ふがえちゃんは、繁殖引退犬、全盲、病気が多くて治療費がすごくかかる…から1年以上、新しい家族に出会えなかったそう。
確かに、全盲だとお家でお留守番とかは難しい。
でも、1年以上保護団体にいたことで、小野さんの目に留まり、自宅で仕事をしている小野さんだからこそ責任を持って終生飼育ができて、ふがえちゃんの新しい家族になれた。
(リアルな1ヶ月の治療費も暴露しちゃってましたが…それも加味すると一般家庭ではなかなか難しかったよねえ…と思います)
そんな話を聞くと、譲渡条件緩和すればいいってものでもないんだなあという気持ちになります。
高齢者が保護犬を引き取れる活動
高齢になって、子供も巣立って行き、時々孫がくるけれど…となったとき、傍に寄り添ってくれる存在が欲しいと思うものなのかもしれません。
けれど、年齢が一番大きな壁となって保護犬譲渡には参加できない。でもペットショップであれば仔犬を迎えることができる。
そうなると、高齢者がペットショップで仔犬を迎える、ということが増えてきます。
でも、飼い主となる人がすでに高齢だと、迎えた仔犬が成長して旅立つまで一緒に暮らせる保証は、働き盛りの世代と比べるとさらに低くなります。
結果、最後まで暮らせずに飼育放棄せざるえない犬が出てきてしまう…。
それは無責任じゃないか、という話もでました。
飼育期間だけでなく、体力も落ちている高齢者が仔犬の世話をするのはとっても大変。なら、同じようなシニア犬を迎えて、ゆっくりのんびりと寄り添って暮らしていくのがいいのではないか?
でも、シニア犬を迎えるとなると入り口は保護団体になり(ブリーダー直接の繁殖引退犬もいるけれど)年齢でひっかかって保護犬は迎えることができない…堂々巡りです。
動物病院やドッグトレーナー、トレーニング施設が保護団体と連携して、高齢者でも犬と暮らせるシステムを作る。高齢であるがゆえに終生飼育が難しいのであれば、飼育ボランティアや飼い主同士のネットワークを作る。
そんなことを地域や行政と進めていけたらいいのでは、なんて話も。
事実、そういった要望もあるんだそう。
これはこれで実現したら、新しい保護犬たちの行き先になるだろうし、年齢やライフスタイルの関係で犬と暮らすことを諦めざる得なかった人たちにとって、ひとつの希望というか、生きている実感みたいなものになるんじゃないかな。
実現させるにはわたしでは想像のできないようなハードルがあるんだろうけれど…この要望が届く先、もしかしたら形にしてくれるかも、と思える先には、今回の講演会に集まった先人たちがいるから、夢みたいなこと、ではなくて形になる未来がひらけているかもしれない。
それぞれがそれぞれのできることをできる範囲で
Mr.Mac Academyに参加するのは実はこれで3回目なのだけど、毎回プロフェッショナルである先人たちの話を聞くにつれ、今わたしができることはなんだろう…と考えます。
ペットショップからでもブリーダーからでも保護団体からでも、どこから迎えたかは関係なくて。
お迎えしたからには最後まで責任持って一緒に暮らしていくことが、わたしたち飼い主の責務であれば。
殺処分ゼロを声高に叫ぶのもいいけれど、そうなる境遇のコを作らないことが第一であれば。
政治的な活動や規模の大きい活動は力のある、影響力のある人たちにお任せして。
わたしは、同じ一飼い主目線で迎えたコと楽しく幸せに日々を過ごしていくために、わんごはんやアロマを暮らしに取り入れていくことを伝えていきたいな、と改めて思った時間でもありました。
それぞれがそれぞれの立場からできること。
高尚な理念でなくとも、今、目の前にいる愛しい命を大切にすること。
究極は、ただこれに尽きるんだと思います。
約2時間半の講演会。
半分以上は上記のような内容だったのだけど、後半に少しだけ看取りの話もでました。
その辺りは、講演会の写真とともにMr.Mac Academyのページでレポートされると思うので、そちらを読んでいただくといいかなと。
メモは取っているのだけど、看取りよりもなによりもその手前の「今、目の前にいる愛しい命を大切にすること」「捨てられるコをゼロにすること」を意識していこうよということを伝えたいと思ったので。
もし、今犬と暮らしていないのならば、捨てられるコをゼロにする活動をして行くのもいい。
でも、今犬と暮らしているのならば。
今一緒に暮らしている、あなたが大好き!を伝えくれる犬がその生を謳歌し終わるその時まで、その手を離さずにいて欲しい。